1996.7.23 市立堺病院

大腸菌O-157関連HUS(溶血性尿毒症症候群)の

治療経過(第2報)

−早期発見の血漿交換療法の試み−


本稿はあくまで筆者個人の見解に基づくものであり、 現段階でのHUS治療基準に関する統一見解とは今後の議論・検討によって異なってくることも ありえます。また市立堺病院の公式見解ではないことを申し沿えます。


【はじめに】

1996年7月11日より堺市内の小学生の間に大腸菌O-157感染症が集団発生して以降、 当院の延べ入院患者は61名(7/22までに10名が退院)で4名をHUS発症と判断した。

 7月15日には小児科・内科・ICT(感染制御チーム)・透析室の協力体制を作り、 さらに阪大小児科の応援を得て、毎日のデータチェックによるHUSの早期発見に努めた。 透析室では、小児用血漿分離膜・透析ファイバー・透析用カテーテルを緊急購入し 血液浄化療法の準備を整えた。

 血小板数50%以下の低下をもってHUSと判断、 ジピリタモール・γグロブリン大量・FOY・ハプトグロビン投与などの基本的治療に加えて、 できるだけ早期に血漿交換(PEx)+血液透析(HD)を開始し、 血小板数の増加が見られるまで連日行うことを基本方針とした。( 治療法の詳細は緊急報告第1報で報告済み) HUS発症と判断した患児4名のうち、7/17に開始した1例(症例2)は3日連続の治療後に、 7/20に開始した1例(症例4)は2日連続の治療後にそれぞれ回復傾向がみられており、 7/23にはほぼ寛解状態と判断している。7/23現在までの治療経過を報告する。

【症例1】7歳男児 7/11腹痛・血便で発症 7/13入院 発熱最高37.3℃

7/16には血便消失し元気な様子であったが、7/17ぐったりして傾眠傾向にとなり、 血小板数2.2万のため直ちに血液浄化療法を開始し連続して施行、7/20には血小板数 3.2万と自然増加を見たが7/21には再度血小板減少し7/22も血液浄化療法を続行、 7/23も血小板数の増加・LDHの低下を認めたが、貧血の進行があるため 7/23も血漿交換を予定している。本例は7/16に血液検査が提出されておらず、 HUS発症の判断が1日遅れてしまったため治療に難渋する結果となったものと思われる。 全経過を通じ、全身状態は良好である。

  7/15 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22 7/23 7/24
WBC 5450 6570 6060 5080 5270 7072 6620 5330  
Hb 12.1 10.0 6.5 7.1 7.2 6.9 7.3 6.3  
plt 16.9 2.2 2.2 1.9 3.2 2.4 3.1 3.5  
LDH 442 2824 3400 3836 3594 3191 2815 1711  
T-Bil 0.32 2.74 2.08 3.95 3.29 2.76 3.2 1.91  
BUN 8.6 26.4 43.3 51.1 50.6 48.2 43.5 40.6  
Cr 0.60 0.95 2.08 1.88 1.70 1.42 1.44 1.14  
CRP 2.1 2.2 3.9 2.9 1.6 0.9 1.2 0.2  
治療   PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD

【症例2】10歳男児 7/12腹痛・下痢(その後血便)7/14入院 発熱最高37.9℃

7/17血小板数40.2万→17.1万へと減少したため、血液浄化療法を開始、 7/20には血小板数の自然増加・LDHの低下を認め、血漿交換を中止した。 7/21・7/22と引き続き血小板数は自然増加し、すでに寛解状態になったものと思われる。

  7/15 7/16 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22 7/23
WBC 11260 10230 10650 800 7810 7970 7340 7000 6600
Hb 12.7 12.0 11.6 10.3 8.6 7.2 9.7 9.4 8.9
plt 39.7 40.2 17.1 9.1 5.5 7.1 11.3 13.6 11.6
LDH 488 370 810 1375 1239 699 1013 684 617
T-Bil 0.37     3.0 2.0 1.07 1.4 1.05 0.69
BUN 8.7 9.9 16.3 26.1 26.8 28.2 23.3 19.6 15.6
Cr 0.72 0.62 0.86 0.99 0.93 0.71 0.69 0.79 0.69
CRP 1.7 0.8 0.3 0.1 0.2 0.0 0.3 0.2 0.1
治療     PEx+HD PEx+HD PEx+HD        

【症例3】10歳男児 7/11腹痛・下痢(その後血便) 7/14入院 発熱最高37.9℃

入院当初より腹痛の訴え強く頻回に血便あり、7/17白血球増多・血小板数減少あり HUSへ進行する可能性が大きいと判断。 基本的な治療法(FFP20ml/kg輸液・γグロブリンの大量投与など)を開始したが 血小板数の減少傾向を食い止めることはできず、7/18血小板数2.6万となったため 血液浄化療法を開始。5日間連日の血漿交換により7/23ようやく血小板の増加・LDH の低下が見られたが、7/23も血漿交換量を減らして治療予定である。 血小板数は13.9万(7/17)→2.6万(7/18)と1日で急激な低下を示しており、 7/17の夕方に血小板を再検して血漿交換を開始するべきだったとも考えられ、 この半日の遅れが治療期間の長引いている原因と思われる。 全経過を通じて全身状態は良好で、腎機能低下も見られていない。

  7/15 7/16 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22 7/23
WBC 14610 17100 21450 11120 9940 9170 8780 9930 9750
Hb 13.3 12.7 12.6 9.23 7.0 7.7 7.9 9.2 8.7
plt 20.0 17.4 13.9 2.6 1.4 1.3 1.5 2.2 4.2
LDH 353 339 670 1425 1847 2095 1645 1630 1216
T-Bil 0.34 0.34 0.90 2.75 2.47 2.88 2.80 2.31 1.94
BUN 8.3 9.2 9.14 11.3 20.6 31.8 26.9 27.6 24.0
Cr 0.57 0.67 0.55 0.65 0.64 0.71 0.73 0.71 0.71
CRP 3.7 4.0 7.4 7.9 4.1 2.3 1.3 0.8 0.9
治療       PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD PEx+HD

【症例4】7歳女児 7/15血便・腹痛で発症 7/18入院

7/19より血小板減少傾向があり、7/20血小板数8.4万となったため血液浄化療法を開始。 2回の治療で7/22にはすでに血小板数の増加傾向が見られ、7/23には12.1万まで増加、 寛解状態に入ったものと思われる。本症例では比較的早期に血漿交換を開始できたことが 早期の回復をもたらしたものと思われる。

  7/15 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22AM 7/22PM 7/23 7/24
WBC 8720 18940 8760 8910 6730 6510 7520 11880  
Hb 13.0 12.7 13.8 11.5 10.6 9.7 9.4 8.8  
plt 27.4 30.2 16.7 8.4 4.4 5.4 6.7 12.1  
LDH 790 575 732 1284 1373 854 800 930  
T-Bil 0.61 0.65 1.15 1.45 1.15 0.88 0.9 0.58  
BUN 9.1 19.1 19.7 15.6 13.8 14.4 13.7 10.6  
Cr 0.66 0.75 0.71 0.59 0.74 0.83 0.75 0.78  
CRP 2.2 7.4 6.1 4.4 3.7 1.4 1.4 1.2  
治療       PEx+HD PEx+HD        

【考察】

4例の途中経過から早期の血漿交換療法の効果を論じることは難しいが、 すでに2例は改善離脱できており、臓器不全が起こる前に積極的な治療を開始することが 予後の改善をもたらす可能性は十分考えられる。血漿交換の開始時期については、 早期に改善した2例の開始時の血小板数はそれぞれ17.1万・8.4万、治療経過が遷延している 2例の開始時の血小板数はそれぞれ2.2万・2.6万であり、 早期の血漿交換開始が早期の回復をもたらす要因となっているものと思われる。 また、血液浄化療法に関する合併症としては2症例について3回軽度の蕁麻疹が見られ、 少量のステロイド(ソルメドロール20mg)を使用したのみで、血圧の低下なども見られず きわめて安全な治療法であると考えている。

 当院透析室は3床しかなく同時に血漿交換できるのは2例であるため、 HUS症例受け入れのキャパシティは4例としてきたが、早期治療にて離脱できる症例があれば さらに症例の受け入れが可能となる。


文責:市立堺病院内科 松浦基夫

連絡先:TEL 0722-38-5521

FAX 0722-23-7431


メニューへ