大阪府医ニュース8月14日版から


  

大阪府救急医療情報センターにおける
  
O−157集団感染への対応(報告)

              大阪府救急医療情報センター所長
              大阪市中央急病診療所管理医師
                         鶴原常雄

 


 

 平成8年7月13日(土)午後1時30分頃、当情報センターに、堺市において食中毒が発生したとの報告を受けたが、状況が何も把握できないまま午後3時から予定されていた二つの会合に出席した。

二つ目の会合に移って間もなく私のポケットベルが鳴った。午後6時30分のことである。即、情報センターに連絡を取ったところ、集団食中毒により、入院を必要とする学童が多数発生しており、できるだけ多くの収容可能な病院を求めているとのことであった。 その会合には、丁度、医療関係者が集まっていたので、すぐその場で入院施設の確保を依頼し、ただちに大阪市中央急病診療所に向かった。当情報センターへの入院依頼が増加し始めたのは、午後8時頃からであった。 そして堺消防の救急車によって中央急病診療所へ搬送された患者や自家用車で来所した患者の内、12名が大阪市立大学病院や大阪市内の医療機関へ「食中毒患者として」入院させた。その間、堺市対策本部より連絡があり「堺市管内での入院不可能な症例は、大阪市中央急病診療所の方へ直接に連絡を入れれば入院の手配をする」という約束をした。

 翌14日(日)も堺対策本部の依頼により7例に対して入院紹介をした。この時のこれらのベッド確保は次の2ルートによってなされた。即ち、大阪市救急医療事業団を通じて敏速な手配と努力により大阪市立病院へのベッド確保と、救急医療情報センターにおける大阪府医療対策課でのベッド確保とによるものであった。 その結果、その夜を無事に乗り越えることができた。その間、堺市医師会副会長(府医師会理事)樋上忍氏(宿院急病診療センターにて診療中)と互いに電話連絡を取り合うことにより、情報交換等を含めて2日目の夜も乗り切ることができた。

週明けの15日(月)、大阪府医師会集団下痢症対策本部が組織され、堺市対策本部で堺市内医療機関にて収容できない症例の転送入院依頼に対応すべく、24時間体制での受付が行われた。
今回の当情報センターでの役割を通して問題点を挙げるとすれば、次のような点が挙げられる。

(1)患者搬送先の選別について
従来、救急医療の目的から患者転送に当たっては、直近の医療機関への搬送を原則としているが、今回のような思いがけない集団発生においては、症状や重症度に応じてその患者にとって適切な転送先を、病状を含めて決定することが必要であると思われる。即ち、医師による症状把握を含めた情報の一本化の必要性を強く感じた。
(2)第二次搬送について
第二次搬送とは、腹痛・下痢・血便等の症状で確定診断を必要とする患者の搬送であり、今回の食中毒については、多数の発生のために次第に遠距離搬送となり、家族の不満(兄弟やその他の家族の対応に対して)への対応が困難であった。
(3)第三次搬送について
第三次搬送については、第二次搬送患者の血小板減少や乏尿などの腎臓機能の低下、さらには、血尿や鼻出血等の出血傾向を認めた症例で、血漿交換や腎透析を要する搬送患者である。 前半は、救命センターへの搬送を数例行ったが、血漿交換や透析を要すると思われる患者の発生予想数から、全てを救命センターではカバーできないことを考慮し、透析医会の協力を得て、小児透析可能な施設の協力により搬送を可能にすることができた。 しかしながら、小児透析施設でも5歳未満の受け入れ施設は少なくなり、特に、二次感染による2歳児の第三次施設を見つけることは困難と思われ、これらに対応可能な施設としては、NMCS(新生児診療相互援助システム)の情報センターの再現であるところのNMCSグループとの連携、さらには、近畿新生児研究会関連の兵庫県の施設へのベッド確保を行い、これらの危機を脱することができた。すなわち、平常からの連携が大切であることと、その必要性を痛感した。
(4)堺市以外での散発発生への対応
上記の堺市下痢症状の集団発生に対する搬送患者の対応がほぼ終息し始めた22日(月)頃から、大阪市内をはじめ、大阪府下において散発的にO157が発生し、第二次搬送依頼が認められるようになった。
(5)その他の搬送依頼について
堺市内でのO157以外の疾患に対する搬送依頼が2例あったが、これも事情によるもので、可能な限りの努力をした。また、堺市以外からはO157とは異なる下痢患者の搬送依頼があり、これについては従来のオペレーターでの情報による対応で行った。
(6)その他
13日(土)と14日(日)の2日間を通して中央急病診療所において対応を行った理由としては、患者の疾病の確認がまず第一に必要であり、幸いにして、私が中央急病診療所管理医師でもあり、休日でもあったということであった。何はともあれ疾病の重症度の確認が必要であった。
13日の深夜では、12例全例の診察を行った。翌14日(日)における症例については、入院施設に直接搬送してもらった。すなわち、情報センターでは医師がその場で診察を行うことはできないが、今回に関しては幸いにして、私が中央急病診療所の管理医師を兼務していることが役立ったものと思われる。
また、当情報センターのO157に対する空床の状況を従来の救急医療情報システムのオンライン情報として挿入しないかという意見があったが、集団発生時においては、医師が症状を確認の上、遠隔地及び症状に応じた入院施設の選定が必要であり、今回の場合には最も便利である堺市内の医療機関および近隣の大学に隣接した救命センターを使い果たした経緯があり、今後の集団災害における反省点ではないかと思われる。

その他、今回は医療的判断の考慮を含む対策の欠乏が考えられるが、このことについては今後の保健医療制度の検討の中で大きな反省点として考えるべき問題であると指摘して稿を閉じます。